雑記

世界一大きな飛行機A380がANAから退役しない理由

2021-09-10

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世界一大きな飛行機A380がANAから退役しない理由

2021-09-10

ANAがコロナ渦直前に導入した世界一大きな旅客機であるA380、19年5月の就航後1年を経たずにコロナ渦に突入し、1年以上まともに客を乗せて飛んでいません。エールフランスやルフトハンザなど世界の大手航空会社でどんどんA380を退役させている中で、退役せずに眠らせています。この理由を考察します。

ANA A380の現状

2019年3月に受領して、同年5月から成田~ホノルル線に隔日で運行開始しました。7月には2号機を受領しました。しかし、新型コロナウイルス影響で運行停止となり、最終導入予定機の3号機も引き取りをせずに、エアバスの工場に保管されています。

受領順 機体番号 登録日 カラー
1号機 JA381A 2019/3/15 ブルー
2号機 JA382A 2019/5/16 グリーン
3号機 JA383A 未受領 オレンジ

 

 

海外のA380の動向

エミレーツ航空だけが世界の約半数のA380を運用して、スケールメリットを生かして運航していることを除くと、エールフランスやルフトハンザなど、各国の航空会社はどんどん退役させています。エンジンが4機あって運航コストが高いのと、大型すぎて就航路線が限られ、うまく収益を上げられないようです。

A380 会社別発注数と引き渡し数

Data through 30 June 2021.[1]

出典:Wikipedia 英語版"List of Airbus A380 orders and deliveries"

ANAのA380が退役しない理由

1,今の経営陣の経営判断ミスを認めることになるから

これが一番だと思います。現在の会長・社長ともに在任期間が長く、彼らの経営判断ミスの表面化を隠すためにA380が聖域になっています。

そもそもANAがA380の導入したのは、2015年に前年経営破綻したスカイマークへの再建計画をデルタ航空を中心とした陣営と争っている中で、大口債権者だったエアバスを自陣営へ取り込むためでした。エアバスは、スカイマークに債権(確定注文していたA380とA330の未払い金)を抱えており、大口債権者でした。再建計画案は、裁判所で債権金額に応じて投票で実施されます。当時、ANAは、自社ネットワーク拡大のために、スカイマークを手に入れたく、債権者の賛同をかき集めていました。エアバスを自陣営に取り込む代わりに、A380という不人気機種を買わされたのでした。

ハワイ路線の強化というのは、後付けの理由です。経済的合理性だけを考えれば、導入機種がたった3機で、他路線への転用の余地が殆どない機種を購入するのは、無理のある経営判断でした。たった3機の導入でも専属のパイロット・予備部品・シュミレーター・整備マニュアル・認可取得などを新たに実施が必要となり、運航コストが増大するのは明らかです。しかし、どうしてもスカイマークを欲しかったANAの経営陣は、A380という毒まんじゅうを食べたのでした。

伊東 信一郎氏と片野坂 真哉氏が会長・社長となる体制は、2015年4月から変わっていません。スカイマークの再建でデルタに勝ったのは、15年8月なので、彼らの体制で最初の大きな勝負でした。今A380を手放すと、新型機を導入して1年を経たずに手放すという経営判断ミスが顕在化するので、塩漬けにしているのでしょう。

経営体制とA380の歩み

2009年4月 伊東氏が社長就任

2015年4月 伊東氏が会長就任(現任)、片野坂氏が社長就任(現任)

2015年8月 スカイマークの再建でデルタ航空陣営に勝つ

2016年1月 ANAのA380導入を発表

2019年3月 ANAの初号機を受領

2020年4月  コロナウイルス影響により全機運航停止

2,巨額な固定資産除去損の支払いに耐えられないから

一言で言うと、リストラ費用が払えないからです。経済的合理性を考えると、すぐに退役を決めて固定資産除去損という日本の会計基準でいう、”特別損失”を計上するべきです。

例えば100億円の航空機を購入すると、すぐに100億円が費用計上されず、減価償却費という形で、期間案分して費用計上します。例えば、100億円の機体で償却期間が20年だと、年間5億円の経費(減価償却費)の負担になります。しかし、機体を売却してしまうと、全額を一度に償却を求められます。ただでさえ火の車のANAにとって、この損失の計上を先延ばししたい論理が働いているのは間違いないです。

一方で、これだけ飛ばないと、固定資産の"減損"が視野に入っているのは間違いないです。収益の見込みが立たなければ、減価償却費で均等に償却するのではなく、一括して将来収益に見合った簿価まで償却を求められます。いかに減損を回避するか、ANAの経理チームが頑張って会計士と戦っている姿が企業の経理パーソンとして想像できます。

3,会計基準を国際会計基準(IFRS)に移行していないから

もしANAが国際会計基準を導入していれば、すでにA380を手放す経営判断が出来たかもしれません。2020年度決算から、JALの会計基準は、日本基準から国際会計基準(IFRS)に移行しました。ANAは、いずれIFRS移行する意向表明していますが、現時点では日本基準で決算を上げています。

IFRSは日本基準よりも減損の判定基準が厳しいため、日本基準において減損損失は計上不要と判断されていたとしても、IFRSが求める厳格さで検討した結果、減損が生じるという事があるのです。A380も国際会計基準ならよる巨額の減損を迫られていたはずです。仮に強制的に減損されていれば、前述の2を気にしなくても良いので、早期に退役していたと思います。

 

JALの方が機体整理を先行させている

2021年3月期決算で、JALに比べてANAの保有機体の損切りができない実態が明るみになりました。

内外でエンジンの発火トラブルが相次いだ米プラット・アンド・ホイットニー製のエンジンを搭載した、ボーイング777という大型の旅客機が2021年2月に国土交通省から運航停止が指示されました。その対象機種が、ANAで19機、JALで13機運用していました。3月末時点でJALが全機退役したのに対し、ANAは運航停止が続くなか数機の退役に留まっています。ANAは、物理的にも経済的にも飛べない777とA380という大型機種を塩漬けにしているのです。

JALが先行して全機退役した理由は、後継機のA350を導入している等複数要因を総合的に判断した結果です。ただ、ANAより先行して判断できた要因の一つに、国際会計基準へ移行したことにより、退役させなくとも会計上減損を迫られる恐れがあったため、先行して退役させる経営判断に傾いたと考えられます。

今後の展望

ANAが中期経営計画のローリングを20年6月に実施し、その際にA380を維持することを決めました。しかし、コロナ影響が当時の想定以上に長期化していると思います。企業の内在的論理を考えると、現在の経営陣でいる限り、A380の退役ができないのではと思います。もし近い将来退役が決まればANAのコーポレートガバナンスが効いていることになると思います。

色々書きましたが、私も是非乗ってみたい航空機です。もし、またハワイに行ける機会があればA380を選択するつもりです。

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